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「メディア論」とAI時代──マクルーハンの視点から現代を読み解く

更新日:2月17日


メディア論―人間の拡張の諸相
メディア論―人間の拡張の諸相

イントロダクション

ある日、スマートフォンの「スクリーンタイム」を確認すると、驚くべき数字が表示されていた。

「本日の使用時間:4時間27分」

「そんなに使ってたのか?」と驚きつつ、ふとマクルーハンの『メディア論』を思い出した。

彼は「メディアとは人間の拡張である」と述べたが、もしスマートフォンが私の「拡張」だとしたら、私は1日の5時間近くをスマホの中で過ごしていることになる。では、今のメディア環境は私たちに何をもたらしているのか? それは拡張なのか、それとも支配なのか?

『メディア論』を現代に当てはめながら、この問いについて考えてみたい。


 

メディアは人間の拡張とは?

マクルーハンは、「メディアとは人間の拡張である」と述べた。つまり、メディアは単なる情報の道具ではなく、人間の感覚や能力を広げるもの だ。

  • 車 → 足の拡張(より速く、遠くへ移動できる)

  • メガネ → 目の拡張(視力を補助する)

  • スマートフォン → 記憶やコミュニケーションの拡張(情報を保存し、即座にやり取りできる)

AIの登場により、知的思考の拡張が進んでいる。ChatGPTのようなAIは、文章の要約や整理を行い、私たちの「考え方」そのものに影響を与えている。この視点から見ると、AIもまた「人間の拡張」 なのだ。

(しかし、気づけば私たちは1日数時間もスマホに費やしている。これは本当に拡張なのか、それとも「依存」なのか?)

AIやSNSの発達で、私たちの知覚や行動はどのように変わっているのか。マクルーハンの視点から考えていく。

 

ホットメディア・クールメディアとは?

マクルーハンは、メディアを「ホットメディア」と「クールメディア」に分類した。

  • ホットメディア(映画・ラジオなど):情報量が多く、受け手が積極的に補完する必要が少ない

  • クールメディア(テレビ・電話など):情報が不完全で、受け手が積極的に関与する必要がある


AI時代のメディアはどちらなのか?


  • YouTube・Netflix → 高画質・高音質 → ホットメディア

  • X・TikTok → 短文や断片的な情報を受け手が補完 → クールメディア

特に、AIが文章を要約し、情報を整理してくれることで、メディアは「ホット化」しつつある。


 

マクルーハンの理論と現代(AI・SNS時代)
「メディアがメッセージである」

マクルーハンの最も有名な言葉が 「メディアがメッセージである」 だ。これは、メディアのコンテンツよりも、メディアそのものの特性が社会に大きな影響を与えることを意味する。

現代の例:SNSとAI

  • SNS(X・Instagram・TikTok) → 短い情報が瞬時に消費され、深い思考よりもスピードと感情的な反応が重視される。

  • 生成AI(ChatGPT・Gemini・DeepSeek) → 情報を要約し、受け手の思考プロセスを変える。


 

『メディア論』における批判的視点

マクルーハンの理論の特徴のひとつは、既存の体系や主流の観念に対する批判的な視点 だ。彼の考察は、単にメディアの性質を分析するだけでなく、それがどのように社会や人間の知覚に影響を与えるのかを批判的に検討している。

1. 西洋中心的な視点への批判

  • 西洋の文字文化や機械技術が人間の知覚や社会構造に与えた影響を分析する一方で、非西洋文化や口承文化の価値を再評価 している。たとえば、中国の表意文字文化や、部族社会の聴覚的なコミュニケーションの重要性を指摘。

2. 技術決定論への批判

  • 技術は単なる社会の決定要因ではなく、人間との相互作用の中で影響を与え合う。技術は人間の能力を拡張するが、それによって新たな制約や問題も生まれる。

3. メディアの本質に対する批判

  • メディアは単なる情報伝達手段ではなく、人間の知覚や社会構造を形成する力を持つ。

  • 「ホット・クールメディア」の区別も、メディアの影響を単純な情報のやりとりではなく、知覚の変化として捉える視点を提供する。

4. 専門分化と疎外への批判

  • 産業革命以降の専門分化が、人間の感性を鈍らせ、社会的なつながりを弱めていることを批判。特に、文字文化が視覚を重視し、他の感覚を軽視する傾向を問題視。

5. 進歩史観と機械文明への批判

  • 技術の進歩が必ずしも人間を幸福にするとは限らない。機械技術は人間の身体を拡張する一方で、人間関係や精神的なバランスを崩す可能性もある。


 

まとめ:『メディア論』から学べること

本書から得られる3つのポイント

  1. メディアに対する批判的思考の重要性→ メディアを単なる道具ではなく、社会や意識を形作る力として捉える視点が必要。

  2. 技術と人間の関係を問い直す→ 技術は人間を拡張するが、それによって新たな問題も生まれる。

  3. 多様な文化や価値観を尊重する→ 西洋中心の価値観を問い直し、異なるメディア環境が生み出す文化を理解することが大切。


 

 AI時代にマクルーハンの視点が必要な理由

スマートフォンを1日4時間以上使う自分を見つめたとき、マクルーハンの言葉が思い出された。

「メディアとは人間の拡張である」

もしそうなら、私たちはどこへ拡張されているのか?彼の理論を現代に応用することで、AI・SNS時代の情報環境をより深く理解する手がかりになるだろう。💡

 

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